前略、肉食お嬢様②―カノジョな俺は婿養子―
ところかわってアパートを出た玲は、道端に停めてある車に歩み寄り、後部席のドアを開けるよう窓をノック。
慌てた様子で中にいたお目付けの蘭子がロックを解除し、玲を招き入れるものの、その表情は芳しくない。
何故ならば、彼女がこんなにも早く戻って来ると思わなかったのだ。
習い事を休すませてまで足を運んだのに、もしや喧嘩でもして飛び出してきたのではないだろうか。
折角の恋がもう散ったとか。
嗚呼、それは困った。男嫌いが悪化する。
そわそわする蘭子が、「どうでした?」楽しく談笑できましたか? と、平常心を装って令嬢に尋ねる。
生返事をする玲は座席に腰掛け、車の扉を閉めると運転手に発進するよう指示。
よってエンジンが掛かったままの車は、数秒もせず動き始めた。
腕と足を組む玲は、話し掛ける蘭子を無視して車窓に視線を流す。
「一々性別を気にしていたら、手遅れになるかもしれないな。
あいつ、ぼくにあんなことを言うなんて。惚気られてしまったな。当てられた気分だ。守ってやりたくなったじゃないか。お人よし嘘つきを」
「玲お嬢様?」
「―――…蘭子、僕は決めたぞ。彼女を作る」
悲鳴を上げそうになる蘭子に対し、「あいつは僕の“彼女”だ」あくまで“彼女”にしたい奴だ。もう、あーだこーだ悩むのはやめにする。自分の気持ちには素直になる。
眼光を鋭くしつつも、退屈していたこれからの毎日が楽しくなりそうだと玲は不敵に笑ってみせた。
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