前略、肉食お嬢様②―カノジョな俺は婿養子―


そりゃあ通行人の生徒数人が立ち止まったよ。

俺も目前で浮気されるとは思わなかったし、大雅先輩も抱かせろなんて命令されるとも思わなかった。

誰もが絶句している中、逸早く我に返った大雅先輩が「阿呆か!」テメェには彼氏がいるだろうとご尤もなことをのたまう。


「なあんで俺がテメェに抱かれなきゃならん! 俺は抱く専門だっ…、豊福はどうした豊福は!」

「空はいつも抱いている」


え゛、俺等はまだいかがわしい営みをしたことがない筈っすよ!

絶句の上に混乱している俺を余所に、「ええい煩い奴だ」少し試したいだけだと告げ、硬直している大雅先輩に歩み寄ると膝裏を蹴り飛ばし、体勢を崩す彼を抱き上げた。


そう鈴理先輩は大雅先輩をお姫様抱っこしたかっただけのようだ。


目を白黒させている大雅先輩は、サッと我に返って「すぐに下ろせ!」じゃねえと酷い目に遭うからな、なーんて喚き散らしていた。
 

ちなみに俺自身はついつい二人と距離を置いてしまう。
 

いつもされる側に立たされているから分からなかったけど、女に姫様抱っこされる男の図って激アンバランス。

お世辞にも微笑ましい光景とは言えない。

寧ろ、爆笑ものかもしれない。

大雅先輩の体躯が大きく、鈴理先輩の体躯が小さいってのもあるよな。不平衡なこと極まりない。


必死に下ろすよう喚いている大雅先輩を見ているうちに、俺の笑いのツボが刺激され口を歪曲にして、とうとう爆笑。


俺は光景に腹を抱えて笑い、「テメェ!」後で覚えてろと大雅先輩は怒気を纏っていたという。鈴理先輩だけは難しい顔をして、意味深に吐息をついていたっけ。
  

< 207 / 918 >

この作品をシェア

pagetop