前略、肉食お嬢様②―カノジョな俺は婿養子―
そりゃあ通行人の生徒数人が立ち止まったよ。
俺も目前で浮気されるとは思わなかったし、大雅先輩も抱かせろなんて命令されるとも思わなかった。
誰もが絶句している中、逸早く我に返った大雅先輩が「阿呆か!」テメェには彼氏がいるだろうとご尤もなことをのたまう。
「なあんで俺がテメェに抱かれなきゃならん! 俺は抱く専門だっ…、豊福はどうした豊福は!」
「空はいつも抱いている」
え゛、俺等はまだいかがわしい営みをしたことがない筈っすよ!
絶句の上に混乱している俺を余所に、「ええい煩い奴だ」少し試したいだけだと告げ、硬直している大雅先輩に歩み寄ると膝裏を蹴り飛ばし、体勢を崩す彼を抱き上げた。
そう鈴理先輩は大雅先輩をお姫様抱っこしたかっただけのようだ。
目を白黒させている大雅先輩は、サッと我に返って「すぐに下ろせ!」じゃねえと酷い目に遭うからな、なーんて喚き散らしていた。
ちなみに俺自身はついつい二人と距離を置いてしまう。
いつもされる側に立たされているから分からなかったけど、女に姫様抱っこされる男の図って激アンバランス。
お世辞にも微笑ましい光景とは言えない。
寧ろ、爆笑ものかもしれない。
大雅先輩の体躯が大きく、鈴理先輩の体躯が小さいってのもあるよな。不平衡なこと極まりない。
必死に下ろすよう喚いている大雅先輩を見ているうちに、俺の笑いのツボが刺激され口を歪曲にして、とうとう爆笑。
俺は光景に腹を抱えて笑い、「テメェ!」後で覚えてろと大雅先輩は怒気を纏っていたという。鈴理先輩だけは難しい顔をして、意味深に吐息をついていたっけ。