前略、肉食お嬢様②―カノジョな俺は婿養子―
「健全重視か」
ABC段階で言えば【-A】といったところか、我慢できるかどうかが不安だと鈴理先輩。
「空が煽ってくるからな」
と、あくまで俺のせいにしてくる先輩に俺はググッと握り拳を作ってスルーを試みた。
ここで下手にツッコめば返り討ちに遭いかねない。
忍耐をつけることも大切だ。
そう、大切なんだよ豊福空っ、ゾゾゾッ?!
背筋を伸ばす俺の腰をお触りしてくる鈴理先輩は、「朝からヤラシイ」ふうむ、我慢ができるかどうかは至難の業だと首を捻って独り言。
俺は貴方様の手から逃れられるかどうかが悩ましい問題っすね。
困った、先輩を元気付けるとはいえ自分から罠に飛び込んだ感が否めない。
先輩の理性を信じてはいたいんだけど……、おイタしてくる手を捕まえて俺は思案を巡らせる。
この行為にいつもだったら不機嫌になる彼女だろうけど、今日はご機嫌もご機嫌。
早く放課後にならないかなぁっと口ずさんでいた。
待ちに待った放課後。
一足先に帰りのSHRを終えた鈴理先輩が俺の教室前まで飛んできた。
俺の席は廊下側だから、待ちきれない様子で廊下を往復している彼女の姿を目にしてしまう。
子供のようにはしゃいでいる鈴理先輩に自然と笑みが零れてしまうのは、俺が彼女の嬉々に少しならず触発されているからだろうな。
長ったらしい明日以降の報告が終わると起立、礼、解散。
生徒達は談笑を交えながら身支度を始める。俺も急いで通学鞄に教科書を詰め込んだ。彼女が待っているんだ、早く行ってやらないと。
「そーら! 早く帰るぞ。今日は空と午前様過ぎてもランデブーだが、時間は無駄にしたくない。一分一秒無駄なくあんたを攻めたいんだ!」
……、相変わらずお嬢様はTPOを弁えないんだから。
「空を攻め倒すぞ!」
大声で気合を入れている鈴理先輩に俺は多大な羞恥心を抱く。
先輩、ここは俺のクラスっすよ?
分かってくれています?
大声で攻めだのランデブーだの、単語的にマシとはいえもう少し場の空気を読んでから発言してくれないだろうか?
いや、それができる人だったら俺は苦労していないけど。
クラスメートは既に慣れた光景なのか、談笑を途切れさせることもなく和気藹々と会話に浸っている。フライト兄弟からは悪意ある含み笑いを頂戴したけど!
鞄を持って彼女の下に行くと、やっと来たとお小言を頂戴しつつも笑顔で帰ろうと腕を引いてくる。
おっとっと。
危うく転倒しそうになった俺は、体勢を持ち直して鈴理先輩と昇降口へ。
そこで大雅先輩と遭遇し、「放課後デートかよ」アツイねぇ、と揶揄されてしまった。
俺が何か言う前に、「違うぞ!」デートではなくお泊りなのだと胸を張る鈴理先輩。
ちょ、なんか余計なことを言うんじゃ。