前略、肉食お嬢様②―カノジョな俺は婿養子―
直後、繋いだ手が思い切り引かれた。
「へっ?」
間の抜けた声を出す俺は、身構えていなかったせいかあっという間に真横に崩れた。
硬いとも柔らかいとも言いがたい人の太ももに膝を預けてしまう。
御堂先輩の膝に頭を預けているのだと気付き、大慌てで上体を起こした。起こそうとした。
けど御堂先輩が額を指で押してきたために起き上がれない。
な、なんで、片食指で押さえられているだけなのに!
「額を押さえられるとバランスが上手く取れなくなるんだ、豊福。また一つ学んだな」
極上のスマイルを見せてくれる御堂先輩に寒気を覚えたのは、俺、の、気のせいじゃないような。
「あの」何をする気で? ごくりと生唾を飲む俺に、「勿論何かをする気だ」キリッと御堂先輩が凛々しい顔を作った。
キメ顔するところじゃないっす、そこ!
今のがカッコイイ台詞だと思ったら大間違いっすよ!
「では具体的な行動を示そう。恋敵がいない今が攻めるチャンスだ」
差を詰めるためにも攻めると御堂先輩が俺を見下ろしてきた。
「家に着くまでの間。スキンシップを楽しもうな」
「え、えぇええ遠慮させて下さいっす! ぎゃっ、何処に手を入れてっ! エッチィイイ!」
俺の悲鳴なんてそっちのけで御堂先輩が好き放題お触りお触り。
もう何処を触っているのか言いたくもないんで省略させてもらうことにする。一々書いていたらキリがない。
全力で止めているのにもかかわらず、次第次第に肌蹴ていく制服。それをご機嫌に見やりながら鼻歌を歌う御堂先輩。
と、彼女がむむっと眉根を寄せてきた。
「鈴理め、こんなところにもキスマークを。どれだけ独占欲を見せ付けてくれるんだい。僕も付けてやろうか」
「そ、それは駄目っす! 鈴理先輩っ、付けた場所はしっかり覚えているんっすから!」
「少しくらいなら分からないさ」
「鈴理先輩に殺されるんで駄目ったら駄目です!
…っ、ら、蘭子さんが前にいるんっすよ! 変なことをしたら蘭子さんが泣きますよ! あ、ほらショックで涙目に!」
「お嬢様が男の人に触れていることを楽しんでっ。蘭子はこれ以上にない感激を覚えています。
ああ、お構いなく。私は空気となっておきますので。なんなら助手席に座っていても宜しいですよ」
「蘭子がなんだって?」
「……。……。……とにかく、変なことしたら俺が泣くっす! 泣くっすからね!
っ、お構いなしと言わんばかりに触らないで下さい! 俺には鈴理先輩がいるんっす! 御堂先輩とは好(よ)きお友達でっ、お願いっすから普通に送って下さいィイイイ!」