前略、肉食お嬢様②―カノジョな俺は婿養子―
それが無理なら降ろしてください!
俺の悲痛な叫びに却下を下した御堂先輩が空気にハートを散らしながらボディタッチをしてくる。
何気に押さえつける腕が強いから、抵抗にも一苦労。
傍らで涙ぐんでいる蘭子さんは止めてくれそうにないし、バックミラー越しに微笑してくる運転手さんは論外。
誰も味方についてくれないんだけど!
「豊福。暑いだろ。ブレザーは脱ごうか」
ゲッ、ブレザーに目をつけてきやがりましたよ。この似非紳士プリンセス!
「下心あるでしょ! 絶対そうでしょ! 俺は脱ぎませんからね!」
「なるほど。脱がせて欲しい願望「シャラープっす!」
「照れなくてもいいぞ」「照れてません!」「素直になることも大事だ」「そういう問題じゃないっす!」「ならやはり自分で脱ぎたい願望では」「脱ぐ方向で話を進めないで下さい!」「じゃあ僕が」「だっから俺は脱ぎません!」「………」「な、なんっすか」「豊福知っているか?」「何をっすか?」「抵抗されると」「されると?」「とても燃えるんだ」「燃える?」「………」「………」
「さあ豊福。いい子だからジッとして。でないと、もっと恥ずかしく脱がせてしまうぞ。そうだな、自分から脱がせて下さいと頼むようまずはロープで縛って。それから」
満面の笑顔でビシッと親指で自分の首を切る仕草をするプリンセス。
あれ? プリンセス?
自称紳士プリンセスを名乗っていたくせに、ちょ、ケータイ小説に出てきそうな王子はいずこ?!
これじゃ意地悪系王子っ、いや鬼畜系王子っす!
しかも何気に鈴理先輩より攻めが怖いっ!
「あ、あぁあの、御堂先輩。お気を確かに。なんかへ、変っすよ」
にへらっと笑みを向ける俺に、「そんなことないぞ」僕は至って普通だと御堂先輩はにこっと笑った。にこっというより、にやって表現の方が正しいかも。
「脱ぎたいよな?」
笑顔で脅してくる御堂先輩。
これ以上逆らうと妙なスイッチを入れそう…、と、本能で分かっていてもおばかな俺は頭を振ってしまう。
カチリッ、音なきスイッチを聞いた気がした。
「そうか。だったら素直にさせてあげる。豊福」
きらめきカッコ星マークカッコ閉じる、ときめきカッコハートマークカッコ閉じる、プリンセスエンジェルスマイルを放った御堂先輩は、そう言って口角を持ち上げた。
この台詞を聞いた直後、俺の世界は暗転。
気付けば自分の家のアパート前で下車していた。
ふらふらになっている俺の手には脱いだブレザーがあったりなかったり。
あっれ、俺、いつの間にブレザーを脱いだんだっけ? と首を傾げてしまうレベルまで思考が低下。