前略、肉食お嬢様②―カノジョな俺は婿養子―
「空。どうした? 顔が渋いぞ」
何か悩みでもあるのか?
向かい側に座る鈴理先輩が声を掛けてくる。
それはいつもと変わらない鈴理先輩の声音。
声に顔を上げる俺は、「いえ」何もないですよ。曖昧に笑って鈴理先輩と半分こにしたオムライスをスプーンで掬う。
何か悩みがあるのは、鈴理先輩の方じゃないんだろうか?
……なーんて乙女思考に思う俺ってなんだろうな。
はあーあ、ズバッと聞きたいのに聞けないジレンマがストレスだ。
でもしゃーないよな。
家庭事情ってデリケートだし。
先輩が落ち込むことっていったら大部分が家族問題だ。
彼女は家族内評価で劣等感を抱いているから。
悩んでいるって知っているから、軽いノリでは聞けないんだよな。
半熟のオムライスを咀嚼していると、「構ってやらないから寂しいんじゃねえの?」大雅先輩が揶揄してきた。
「確かに」最近あんた達のいちゃいちゃ見てないわ、川島先輩がシシッと笑い声を漏らす。
あれは学院の名物だもんね、と茶化す彼女に便乗し、
「お二人は公式のラブラブカップルですものね」
わたくしとしては大雅さんとのらぶらぶもありかと、宇津木先輩が腐発言をして大雅先輩をゲンナリさせていた。
いつもの会話だけど、何かがおかしい。
例えるならいつも食べている白米が今日はやけに柔らかいと感じてしまうような、微かな変化を感じる。
それが俺にとっては大きな違和感を感じたり感じなかったり。
俺は違和感を探るために、ちょっとだけ話題に踏み込んだ。
これでも結構勇気を持った方だ。
「最近、鈴理先輩…、お忙しいみたいですもんね」
途端に空気に戦慄が走ったような気がした。
俺は気付かない振りをするけど、他の先輩方の表情があきらかに違う。
まるで彼女の忙しさの内容を誰もが知っているかのような、そんな表情をしているような。
ノーテンキに首を傾げて、「何か遭ったっすか?」もうちっとだけ話題に踏み込む。