前略、肉食お嬢様②―カノジョな俺は婿養子―
どんなに婚約式という現実にショックを受けようと、二人が婚約してしまおうと、彼等がこの世界で生きている。
明るい未来で二人が生きていくという確かな未来があるなら、俺はそっちに手を伸ばしたい。
俺と鈴理先輩じゃ無理だったんだ、最初から。さいしょから。
「どんなに…、努力してもっ、気持ちがあっても、想いがあっても」
届かないこと、やっぱりあるんっすね。
とめどなくなく流れる雫と漏れる嗚咽を噛み締めていると、「自分を卑下しなくていいよ」君はとても努力したよ、御堂先輩が再び抱擁をしてくる。
抵抗とか、おどけとか、そういう考えは俺の頭から飛んでしまっていた。
しゃくり上げる俺に、「君は充分傷付いた」今度は自分を労わる番だと彼女が顔を覗きんで微笑んでくれる。
「先輩っ…、すみません…、すこし、だけ」
誰かのぬくもりがないと、俺自身もう立っていることすら儘ならなかった。
それだけ俺は今回のことにショックを覚え、それを上回る虚勢を張っていた。
彼女のお父さんの前だって、彼女の前だって、虚勢を張ってみせたけれど、弱い自分が曝け出された今、もう意地を張る余力がない。
相手の学ランを握り締めると、一層抱擁が強くなった。
肩口に顔を埋めると、頭を掻き抱かれた。
嗚咽が止まらなくなると、何度も名前を紡がれた。
そして彼女は告げてくる。
「もういいんだ、豊福。君のしたことは誰も咎めない。我慢しなくていい。辛いなら、辛くなくなるまで絶対に放してやらないから。こんな君を一人になんてしてやらない」
かつて鈴理先輩が言ってくれた台詞を、御堂先輩が上塗り。
俺は痛い胸の疼きが渇望に変貌する。
やっぱり俺は鈴理先輩が好きだ、大好きだ。別れたくない、別れたくなかった。
こんな終わり方、俺だって望んでいなかった。
零す感情に相槌を打ってくれる御堂先輩は優しかった。本当に優しかった。
その気持ちに甘えて俺は今、できるだけ弱音を吐いておくとにする。
次、先輩と会う時、ぼろが出ないように。
俺はきっと初めてにして、とても素敵な恋をしていた。
あの日々は絶対に忘れない。
これから先、鈴理先輩との関係が変わっても、絶対に忘れない。