前略、肉食お嬢様②―カノジョな俺は婿養子―
「先輩は王子っすもんね」
でも一度は、そういうのを経験しておくのもいいんじゃないかと相手に促す。
貴重な体験だろうし、普段から女子の王子してるんだ。たまには素直に女の子になるのもいいと思うんだけど。
折角女の子に生まれたんだ。利用しないと勿体無いじゃないか。
俺の言葉に、「なら豊福がいい」御堂先輩がきっぱりと言い放った。
面食らってしまう。呆ける俺に、「女になるなら君相手がいいな」と彼女は口角を持ち上げた。
「まあ、君相手なら女になる必要もないだろうが。何故なら僕が王子だから。僕は死んだって男ポジションを譲らないし、譲ってやらない」
これが僕のポリシーだと目尻を下げると、彼女は俺の手をしっかり取って歩き出す。
よろめきながら彼女の隣を歩く俺は、「手は握る必要ないでしょ」と反論して手を振る。
「あるさ」どっかの誰かを挑発するために。挑発くらいないと、あいつは立ち直らない。
彼女の独り言は俺の耳に届かず、ただただ強引に歩く彼女に引き摺られるばかり。
「ところで豊福。君は敷布団とベッド、どっちが好きだい? 僕は前者が好きなんだが」
突拍子もない質問。
俺は目を点にするしかない。
「……一体なんの質問っすか?! それを聞いてどうするんっすか!」
「相手の燃えるシチュエーションを聞くのは最低限のマナーじゃないか。合意の上なんだ。しっかり話し合って」
「話をぼかしてますけど、疚しい話だってことはすっげぇ分かりますから! いつ、誰が、どこで合意しましたか! それに手は放して下さいよ」
「―――…放してやらないさ。絶対に。君はフィアンセなんだから」
その言葉が間もなく現実になることを、俺も、発言者自身もまだ何も知らない。
俺の首筋には既に赤い痕がなく、彼女の首筋にも付けていた筈の痕も消えている頃だろう。
それはまるで俺達の関係のように、その存在を主張していた赤は音なく色をなくしていた。
⇒Chapter3