前略、肉食お嬢様②―カノジョな俺は婿養子―
「借金ができたんだ」
抑揚のない声で告げられた内容は衝撃的なものだった。
「しゃ、きん?」
そんなまさか、確かに我が家は貧乏だけど借金するほど多額のお金を借りたとは思えない。
トイチに手を出したわけでもないだろうに。
絶句する俺に、「金額は五百万」と更なる衝撃を与えてくる父さん曰く、身に覚えのない連帯保証人になっていたという。
保証人の相手は父さんの従兄弟の一人。
その従兄弟は昔から浪費癖のある人だったらしく、親族を困らせていた人だったらしいんだけど、本日めでたいことにその人の借金のツケがこっちに回ってきたそうな。
両親はなるべくその人に関わらないようにしていたらしい。
でもいつの間にか連帯保証人が父さん母さん名義になっていたとか。
署名されていたために、借金が豊福家にきたんだと。
つまり従兄弟が借金を踏み倒したんだ。
「そんな」酷な話に俺はぎこちなく視線を落として、畳の網目を見つめた。
じゃあ母さんが弁護士に相談しようと言ったのは連帯保証人に関して……、いやでも契約書をちゃんと調べて、押印を調べるとか、筆跡鑑定をしてもらうとか、自分達は保証人になった覚えはないって言えるんじゃ。
あ、でもそれが証明できなかったら責任を負う可能性も出てくるんだよな。
五百万…、か。
給料カットに続いて金の悲劇が続くなんて。
さすがに俺や母さんのバイト代、内職代だけじゃ賄えないぞ。俺達にだって生活があるのに。
「借金は一応返済されているんだ。空」
「え?」顔を上げる俺は両親に支払ったのかと尋ねる。
自分達に返済する力はない。力なく首を横に振る父さんは、肩代わりしてくれた人がいたのだと目を伏せる。
話はそんなところまで展開していたのか。
驚き返る俺に、「肩代わりしてくれた人がな」自分達が返済するまで、確かな繋がりが欲しいと申し出てきたんだ。
従兄弟が踏み倒したからこそ、今度は踏み倒されないよう、しっかりと繋がりを掴んでおきたい。そう条件付けてきた。
そこまで言った父さんが申し訳無さそうに俺を見つめた。
「返済できるまで、息子を預かりたい。それが肩代わりしてくれた人の条件なんだ」
俺を預かり、たい。
それって俺を人質にするってことか?