前略、肉食お嬢様②―カノジョな俺は婿養子―
ケチっては駄目ですよ、と母さんが真顔で俺を見つめてくる。
母さん……、明治時代の華族ドラマで見たんじゃないか? それとも韓流か。
どんなあくどい財閥を想像しているんだろう。
俺まで苛められるんじゃないか? って不安になってきたじゃないか。
しかもテレフォンカードって使う場所が限られているよ。まず公衆電話を探さないといけないじゃん。
「ありがとう」大事に持っとくよ、一応お礼を告げると、「お金の不足は」帰ってきたら調節するからと母さん。
しっかり食べて、寝て、元気に過ごして欲しいと懇願してくる。
だから休日には帰って来るって。
一ヶ月以上顔を合わすことが出来ないってわけじゃないんだし。
「空。何か遭ったらいつだって相談するんだぞ。父さん、母さんは離れていてもお前の味方だから」
うんっと頷き、俺ははにかむ。
「悩みが出来たら相談するよ。その時は相談に乗ってな」
そう言うと、「すまないな」お前には苦労ばかり掛けて、と父さんが詫びてきた。
すかさず首を横に振る。
苦労を負っているのはお互い様じゃないか。
二人だって身に覚えのない借金を背負ったり、こうして俺を送り出してくれたり。
俺が両親至上主義のように、両親も大概で親ばかだから、きっと身を切られるほど辛いんだと思う。顔にそう書いてあった。
母さんに至っては「濱さんだけは許しません」末代まで祟ってやると、怒りの矛先を従兄弟さんに向けて感情を滾らせている始末。
俺って幸せなんだろうな。
こんなにも両親に愛されているんだから。
スポーツバッグに教科書やら着替えやらを詰め込んだ後、俺は自分の机上に置いてある写真立てに手を伸ばした。
育ての親と生みの親の写真を見比べ、俺は両方バッグの中に仕舞う。
これは俺のお守りだ。
これから先、辛苦が遭ったらこの写真を励ましにしようと思う。
まあ、休日は帰って来るんだけど、一応家の運命を背負って嫁ぐ(?)予定になっているわけだから精神面を支える意味でもお守りは持っておきたいところ。
しっかりしないとな。
この縁談がおじゃんになってしまったら、俺達は本当の意味で借金生活を送らないといけない。
今は俺という肩代わりで借金を相殺しているけれど、返していないことに越したことはないんだ。両親も俺も路頭には迷いたくない。
俺は人知れず心中で揺るぎない誓いを立てた。