前略、肉食お嬢様②―カノジョな俺は婿養子―
御堂家に居候する日がやって来た。
いつものように昼間は学校に行き、一通りの授業を終えて帰宅。
スポーツバッグを持って御堂家に向かった。
迎えを寄越すって言われたけど、なんだか悪い気がしたから自分の足で婚約者の家に向かうことを決めていた。
が、俺がアパートを出ると既に迎えが来ていたという。
「お待ちしておりました」
さあ参りましょう、満面の笑顔で出向いてくれたのは御堂先輩のお付き人。蘭子さん。
そりゃあもう、きらっきらとした笑顔で俺を迎えてくれた。
なーんでそんなにご機嫌なの? ってくらい笑顔が際立っている。
戸惑いながら会釈して車に乗り込む。
車内に御堂先輩の姿は見受けられない。
まだ学校かな? 疑問を抱いた俺は後から乗り込む蘭子さんに彼女の行方を尋ねる。
すると蘭子さんが蕩けそうな笑顔で片頬に手を添えた。
「これです。これなのです。私が望んでいたのは、こうした光景です。はぁああ、男の方が婚約者さまなんて。奇跡です、奇跡!」
……、俺の質問は聞いてくれていないようだ。
「玲お嬢様の婚約者さまが男の方」
蘭子はうれしゅうございますっ、と、涙ぐんで感動に浸っている。
御堂家ってつくづく彼女問題に悩まされていたんだな。
もしや御堂先輩、過去に彼女を作ったことがあるんじゃないか?
御両親といい、お付き人さんといい、一々性別で感動してくれるんだからもう。
「蘭子さん。空さまのご質問にお答えしないと」
運転手の佐藤さんが苦笑いを零した。
はたっと我に返った蘭子さんが失礼しましたと頭を下げてくる。
次いで、御堂先輩は学校にいると答えた。
曰く、部活で帰宅が遅くなるとか。
そっか、御堂先輩、演劇部で頑張ってるんだな。
王女役はこなせているかな?
付属校との合同練習って言ってたし、お相手が男の人だって嘆いていたけど。
「そういえば空さま」
蘭子さんに声を掛けられる。なんだか様付けが慣れなくて、「空でいいっすよ」と返事した。
「いいえ。できません」
貴方様は玲お嬢様の婚約者ですよ。呼び捨てなんて滅相もない、蘭子さんがキリッと顔を引き締めた。
そ、そんなもんなのかなぁ。空さまなんてすっげぇ戸惑うんだけど。