前略、肉食お嬢様②―カノジョな俺は婿養子―
これ以上、頼んでも聞き入れてもらえそうにないから、蘭子さんに話の続きを促す。
そうそうと手を叩く蘭子さんは、「空さまの学校生活をお聞きしたくって」と微笑を零した。
「玲お嬢様は空さまのことをある程度存じ上げているようですが、我々召使は貴方様のことを殆ど存じ上げません。
なので、お話を聞かせて頂きたいと思いまして」
そんな丁寧な言葉で頼まれても、俺の学校生活って話すほど大したことじゃないしな。
「もっぱら勉強しかしていませんよ」
そうだな。話せそうなものといえば、今日は家庭科で調理実習があったから親子丼を作ったってことか?
彼女に伝えると、「お料理は得意なのですか?」と蘭子さん。
うーん得意なのかどうかは分からないけど。
「俺、両親が共働きなんで家事全般は取り敢えず網羅しているっす。
まあ、美味しいかは別として食べられない料理ではないと思いますよ」
「素晴らしいですね! あの、できたら是非ともお嬢様に教えてあげては下さりませんか?」
「え? 御堂先輩に?」
目をぱちくりする俺に、
「お嬢様は昔から家庭科の成績が悪いのですよ」
それはもう雄々しいお料理を作ったり、雑な裁縫をしたり、掃除も途中で投げ出したり。
ゆで卵すら作れなくて小学校の料理実習では湯がく行為がめんどくさかったらしく、電子レンジであたためて大惨事になったとか。
「何度もお教えしたのに」
お料理の一品も作れないなんてっ、蘭子は悲しゅうございます。
思い出に浸った蘭子さんがずーんと落ち込んでしまった。
「仕舞いにはっ、『料理の出来る彼女を作ればいいさ』とか言い出したのです。またしても彼女っ! お嬢様だって女の子なのに!」
「あー…、心中お察ししますっす」
「雄々しい性格は昔からなのですが、女性らしく振舞えないところが悩みの種でして。この機に少しは女性の嗜みを覚えてくださったら宜しいのですが」
俺は御堂先輩の言動を想像して身震いする。
女性の嗜みどころか、ケダモノな御堂先輩を想像してしまったっす。
そりゃ婚約者になった手前、そういう行為も許されるんでしょうけど。
……そうだ、そういう行為も緩和されるんだよな。
婚約って将来を約束した、謂わば未来夫婦。
いつか、そういう行為もやってくるんだろうけど。
(まだ俺の感情が現実と追いついていないや。引き摺ってるんだな、きっと)
今更、何を引き摺っているなんて言わないけど、こんな気持ちで御堂先輩に触れたいとは思わなかった。
何より俺を想ってくれる彼女に失礼だと思ったから。
そうだろ?
想いを断ち切れていないのに、他の女子に触れたいなんて相手の女の子に失礼じゃないか。
だから、今はまだ。