前略、肉食お嬢様②―カノジョな俺は婿養子―
どどーんと落ち込んでいる俺に同情してくれたのは大雅先輩。
だけど彼は、「彼女なだけマシだぞ」と励ましの代わりに苦労話をポツリ。
寧ろ羨ましいくらいだと神妙な顔を作る。
「俺なんてっ、どっかの誰かさん妄想のせいで兄貴とイチャラブっ…、ははっ…、どーしよう。
実の兄貴とデキちまっちゃってっ…、二階堂財閥も終わりだな。世継ぎがいねぇなんて…、養子を取るしかないぜ。
おまけに最近じゃあヘーボン野郎とイチャラブっ、世も末だぞ…マジで。
俺は女とイチャラブできねぇのか?
そうだったらガチ切ねぇ」
「あー…っ、ふぁ、ファイツっす大雅先輩」
がっくり肩を落とす大雅先輩に俺は心底同情した。
お互い、苦労しますっすね。
騒いでいる女子達の隣で溜息をつく野郎共。
まるで天国と地獄のようだ。
「あ。世継ぎといえば…、鈴理、やっぱ豊福のことは公の場では伏せておいた方が無難だぜ」
大雅先輩は思い出したように、話題を切り替えた。
弾かれたように鈴理先輩が大雅先輩を見やる。
「一応俺等許婚だし」
彼はしかめっ面を作って、俺のためにも伏せておいた方が良いと助言。
恋人の噂は財閥界を駆け巡っているだろうけれど、今日のパーティーは一応正式な交流場。
カタチだけでも許婚として振舞っておかなければ、会場は騒然となるだろうし、追々親が煩い。
だから俺のことは“ただの友達で後輩”としておこう。
口裏合わせを始める大雅先輩に、鈴理先輩はちょっと不満気な顔をしたけど、
「空のためだしな」
しょうがないだろうと相槌を打つ。
んー、なんだか俺、本当に行っても良いか不安になってきたんだけど。二人の立場が危ぶまれるなら、遠慮して今すぐ下車するけど。
許婚たちに大丈夫なのかと尋ねれば、「安心しろって」と大雅先輩。
「公の場では内密にするだけだ」と鈴理先輩。