前略、肉食お嬢様②―カノジョな俺は婿養子―
逆もあった。
その日も鈴理は例の中学生の近くに腰掛ける。
参考書やプリントを出していた彼は最後に答案を取り出して、ニコニコと笑顔を零していた。
蕩けそうな笑顔だった。
本を探しに行く際、彼の背後を通ったのだが、答案の点数が見えた。英語が満点に近かったのである。
だからだろう。
シャーペンをいつまでも走らせていた。
ご機嫌な彼につい鈴理もご機嫌になってしまう。
帰宅時間を過ぎてもその場に留まってしまったほどだ。
冬の訪れと共に、鈴理は毎日のように見守っている中学生に恋しているのだと気付く。
足が遠のきそうな雪の日でも彼は来ると確信していた。
そのため、鈴理も足を運んだ。
とっくに読みたい本は読み尽くしているのにも関わらず、鈴理は彼の顔を見るためだけに足を運んでいた。
恋の病だろう。
勤勉な年下を見守ることが日課になってしまっていた。
真冬の寒さに耐え忍んで彼は一心不乱に勉強していく。自分の立たされている環境に屈せず、勉強していく姿。
嗚呼、彼に触れてみたいと思った。
けれども勉強の邪魔をするのは気が引ける。
だからもう少し、もう少し、もう少しだけ。
そう言い聞かせて鈴理は彼を見守っていた。
飽きもせず、見守っていた。
閉館時間まで残ったある夜。
吸い込まれそうな夜空から雪が舞い落ちていた。
寒空の下、迎えの車に乗り込んでいると例の中学生がてをすり合わせながら舗道を歩いていた。
スンスンと鼻を啜っている中学生はマフラーも手袋もせず、それこそ傘も差さず、帰路を歩いている。
防寒具は持っていないんだろうか? 身を守るものは何もないんだろうか?
鈴理は自分の持っていた防寒具と彼を見比べて、暫し思案していたが、そうこうしている間にも彼の背は消えてしまった。
「あたしは乙女か」
自分のヘタレっぷりに嘆きたくなった。