前略、肉食お嬢様②―カノジョな俺は婿養子―
砂糖を噛み締めているような甘い台詞・光景を目の当たりにした俺は、人知れず胸焼けを起こしていた。
こういう台詞、直接耳にすると、んでもって甘い光景を目にするとスンゲェむず痒いよな。
なるべーく目を付けられないように、後退して不機嫌に腕を組んでいる大雅先輩と肩を並べることにした。
俺も一応生物学上男だからな。
目を付けられたら最後、胸を抉るような言葉を吐き掛けられるに違いない。
変に関わって傷付くのもヤなんで、努めて空気になれ、俺!
「僕を知らないお嬢さんもいることだ。改めまして、お初にお目に掛かります。
僕の名前は御堂玲。鈴理や百合子、そして大雅の幼馴染み、と言ったところかな。以後、お見知り置きを。どうぞ玲と呼んで下さい」
ぺこっとお辞儀してくる御堂先輩の自己紹介は完全に川島先輩限定だろう。
俺なんてアウトオブ眼中、視線すら向けられない。
……いや、いいんだけど、それはそれでなんだかもの寂しい気もする。
それとも気付かれていない?
…っ、や、やっぱ挨拶ぐらいしておこうかなっ。
ちょっとくらいの辛辣は親衛隊で慣れてるしっ、なんだか存在自体スルーってのが一番堪えるかも!
挨拶をしようかどうしましょうか、と心が揺らいでいる余所で、「何故あんたが此処に?」鈴理先輩が首を傾げた。
「その様子だと会場に向かっている途中だろう?」
彼女はそう御堂先輩に指摘した。
曰く、御堂先輩は走行中、見覚えのある高級車を見つけ、こりゃ絶対鈴理先輩の車だと判断。
高級車がスーパーなんぞといった庶民の空間に突入したもんだから、こうして追跡し、今に至るというわけだ。
「君達も行くのだろう?」
どうせなら皆で行きたくてな、爽やかな笑みを浮かべる御堂先輩だけど、これは女子限定なのであしからず。野郎なんて一抹も視線にくれちゃない。
「それに、あれだ。噂を確かめたくてな。本当ならばじっくり話を聞きたい。会場ではゆっくりと話すことは不可だろうからな」