前略、肉食お嬢様②―カノジョな俺は婿養子―
大雅は言った。
既に彼は自力で環境を変えることができない瀬戸際まで立たされている、と。
金の切れ目が縁の切れ目と言葉あるように、金銭問題は何事も根が深い。借金が返せない彼は、自分の持っている金以外の代物を代償にして今日に至っている。
自分はどうだろう。
内輪の婚約式は終えてしまった。
それですべてが終わったというわけではないが、何か諦めが胸を締めた。
決して好意は消えない。
けれど、両親の強引な行動とその現状、主張していた自分の意見が通らなかった現実に屈していた。
どこかで甘えがあったのかもしれない。
たとえこの現状でも彼は側にいてくれるのではないか、と。
良き友人として側にいると言ってくれた彼の言葉を信じていたため、無気力に近い念を抱いていた。結果がこれである。
自分が無気力に過ごしている間にも、環境は作られていく。
“本当ならば鈴理、君にも教えていたところだ。帳消しを理由に張り合って、恋の火花を散らすことを望んでいただろうね。
だが今の君では駄目だ。僕を失望させた。君と張り合おうとは思わない。君の信念は所詮、その程度だったと見定めているからな。せいぜい大雅でも喘がせておくんだね”
何が失望だろうか、勝手なことを言うなと思った。
本当に自分を待っているのならば、張り合いたいのならば、気持ちを奪いたいのならば、さっさと教えれやればいいのに、と舌打ちをしたくなった。
“俺は鈴理先輩も大雅先輩も好きっす。できることなら、傷付けたくない人達っす。これから先、お二人は財閥を背負って生きないといけないっ……、令息令嬢っす。そのためにどうしても俺の存在は邪魔になる。”
彼も勝手だ。
市民図書館で、学院で、図書室で、どれだけ自分が彼を見ていたか知らないくせに。
“我の強いお前だ。他人に人生決められちゃ癪だろ?”
まったくもってそのとおりだ。
癪である。
今の状況も、流されるままの自分も、取り巻く環境もすべて、すべて、すべてに癪である。癪すぎて涙が出そうだ。
嗚呼、何だこの状況は。
いったい誰に向かって指図しているのだ。
これが自分の幸せか?
いや違う。自分の幸せはこれではない。自分で何も決めていないゆえに胸に広がるのは空虚感である。とてもとても虚しい。
幸せなどなれはしない。自分は幸せにはなれない。
仮に彼を忘れて大雅を受け入れても、それは脆く崩れてしまうだろう。
例えば別の男を好きになっても同じ。
このままでは繰り返してしまう。