前略、肉食お嬢様②―カノジョな俺は婿養子―
カラン、手からフォークが滑り落ちた。
家族の視線が集中したが、鈴理には構う余裕などない。
感情処理ができないのだ。
今の自分はコンピュータの症状で例えるとシステムエラー。
積もりに積もった感情が処理できない。
どうしてもできない。
「す、鈴ちゃん」お腹でも痛い? 泣かないで。瑠璃の焦った声音によって、自分が泣いていることに気付く。
どんなに家族評価が低くても両親の前では決して泣かないと決めていたのに。
いや、今はそんなことを気にしている場合じゃない。
とにかく不愉快すぎて爆ぜそうだ。
ついでに自分に叱咤してきた大雅のカッコ良さにも腹立たしい。自分より数倍大人に見えたではないか。自分がカッコ悪い。ええい、カッコ悪い。
彼に惚れた理由を思い返すだけで、自分の不甲斐なさが際立ってしまう。
自分は彼の何に惚れ、何に羨望を抱いた?
理不尽な環境にも屈せず、ひた向きに努力しようとする姿勢に惚れたのではないか。
守りたいと思ったのではないか。
ああいう姿勢を自分も見習おうと思ったのではないのか。
なのに、自分は何をしている?
両親の目が怖くて、嫌々と言いつつ従順となっている。
これ以上、家族評価を下げたくない一心で。
心の奥底では好感を持って欲しいと願っている自分がいるのだ。
きっと両親は自分が従順になればなるほど、理想像になればなるほど、好感を持ってくれるだろう。
けれど、それは本当の自分ではない。
自分の本当の姿は傍若無人、唯我独尊、わが道まっしぐらのあたし様なのだ。