前略、肉食お嬢様②―カノジョな俺は婿養子―
「さと子ちゃんは和菓子、好き?」
前触れもない問いに「へ?」間の抜けた声を上げるさと子ちゃん。
大好きだと返事を貰うと、「なら良かった」俺のバイト先は和喫茶店なんだ。遊びにおいでよ、サービスするから。彼女に微笑した。
申し出に目を白黒させるさと子ちゃんに、「俺と君は家内では主と女中だけど」外に出たらただの一同級生だよ。
「今度地元を案内してあげるから、楽しみにしててね」
そう言って俺は遠まわし、新たな申し出をした。それは友達になりませんか? という、ありきたりな申し出。
意図を察したさと子ちゃんの泣きっ面に少しだけ晴れ間が見えた。
「携帯持っている?」「はい」「じゃあアドレスを後で交換しよう」「はい!」「あ、でも。俺、赤外線とかわっかんないんだ」「そうなんですか?」「機械音痴なんだよ」「なら私がしてあげます」「ありがとう」
その時、さと子ちゃんの腹の虫が鳴った。
沢山泣いて、安心したせいだろう。
キュルルッと可愛らしく鳴いている。
気恥ずかしそうに頬を染めて腹部を押えるさと子ちゃん。
直後、俺の腹の虫も鳴った。
「あははっ。俺も腹減ってたんだった。なんか食べたいや」
「厨房に行けば何かあるかもしれませんけれど、新人の私が勝手に入ったら怒られてしまいそうです」
コンビニに買出しに行きましょうか? それなら新人の私でも許可されていますし。
さと子ちゃんの申し出に、「いいよ」なんか悪いし。俺は全力で遠慮した。
それより、もっと手っ取り早い方法があると指を鳴らして立ち上がる。
「さと子ちゃん、お仕事は終わっているんでしょう? ちょっと付き合ってよ」
パッパッと土を払い、頭上にハテナマークを浮かべるさと子ちゃんを立たせた。
「あ、あの」戸惑う彼女の腕を引いて、「御堂先輩のところに行こう」家の人の許可が下りれば気軽に入れるじゃんか。
満面の笑みを浮かべ、きっとさと子ちゃんと先輩は気が合うと足を動かす。
「ええっ!」滅相もないと遠慮するさと子ちゃんに、彼女と話したことないでしょ? と振り返る。
「あの人、演劇部なんだ。きっと舞台女優を目指すさと子ちゃんと話が合うよ。女の子にはとびきり優しいしね」