前略、肉食お嬢様②―カノジョな俺は婿養子―


 
「さと子ちゃんは和菓子、好き?」


前触れもない問いに「へ?」間の抜けた声を上げるさと子ちゃん。

大好きだと返事を貰うと、「なら良かった」俺のバイト先は和喫茶店なんだ。遊びにおいでよ、サービスするから。彼女に微笑した。

申し出に目を白黒させるさと子ちゃんに、「俺と君は家内では主と女中だけど」外に出たらただの一同級生だよ。

「今度地元を案内してあげるから、楽しみにしててね」

そう言って俺は遠まわし、新たな申し出をした。それは友達になりませんか? という、ありきたりな申し出。


意図を察したさと子ちゃんの泣きっ面に少しだけ晴れ間が見えた。
 

「携帯持っている?」「はい」「じゃあアドレスを後で交換しよう」「はい!」「あ、でも。俺、赤外線とかわっかんないんだ」「そうなんですか?」「機械音痴なんだよ」「なら私がしてあげます」「ありがとう」
 

その時、さと子ちゃんの腹の虫が鳴った。
 
沢山泣いて、安心したせいだろう。

キュルルッと可愛らしく鳴いている。
気恥ずかしそうに頬を染めて腹部を押えるさと子ちゃん。

直後、俺の腹の虫も鳴った。


「あははっ。俺も腹減ってたんだった。なんか食べたいや」

「厨房に行けば何かあるかもしれませんけれど、新人の私が勝手に入ったら怒られてしまいそうです」
 

コンビニに買出しに行きましょうか? それなら新人の私でも許可されていますし。

さと子ちゃんの申し出に、「いいよ」なんか悪いし。俺は全力で遠慮した。


それより、もっと手っ取り早い方法があると指を鳴らして立ち上がる。


「さと子ちゃん、お仕事は終わっているんでしょう? ちょっと付き合ってよ」


パッパッと土を払い、頭上にハテナマークを浮かべるさと子ちゃんを立たせた。

「あ、あの」戸惑う彼女の腕を引いて、「御堂先輩のところに行こう」家の人の許可が下りれば気軽に入れるじゃんか。

満面の笑みを浮かべ、きっとさと子ちゃんと先輩は気が合うと足を動かす。

「ええっ!」滅相もないと遠慮するさと子ちゃんに、彼女と話したことないでしょ? と振り返る。


「あの人、演劇部なんだ。きっと舞台女優を目指すさと子ちゃんと話が合うよ。女の子にはとびきり優しいしね」


< 472 / 918 >

この作品をシェア

pagetop