前略、肉食お嬢様②―カノジョな俺は婿養子―
真夜中。
床に就いていた俺は眠れない時間を過ごしていた。掛け時計の針は既に三時をさしている。
そろそろ見慣れてきた木造の天井を眺め、次いで隣に視線を流す。
あどけない寝顔を作っている王子がそこにはいた。
微笑を零して俺は布団を肩まで掛けてやる。微動だにしないところをみると眠りは深いようだ。
こうしている間は女の子なんだよな。
寝顔を見つめていると、どんなに男装したって俺と彼女は違う性別なのだと認識してしまう。
本当は先輩、普通の女の子になりたいんじゃないかな。
攻め女とか、そんなのは抜きにして、男装をする自分じゃなく、有りの儘の自分を表に曝け出したいんじゃ。そう思えてならない。
基本的に攻め女ってリード権を持ちたいだけで、女を捨てているわけじゃないんだよな。
俺が男を捨てていないように。
ゆっくりと上体を起こした俺は、自分の首まわりを手の平で擦った。
痕、かなり付けられたな。
鏡で見たわけじゃないけど、きっと赤い証があちらこちらで華を咲かせている。
激しかったもんな、御堂先輩。
濡れ場こそ回避できたけど、執拗に痕を付けられた。
激情を表しているようにも思える。
ディープキスをし、痕をつけ、触れ合った。婚約者なんだ、これくらい許される行為なんだろうけど。
“君の使命は二つ。御堂家の糧になること。そして息子を作ることだ”
―――…。
淳蔵さんの言葉を反芻した俺は吐息をつく。
プレッシャーで押しつぶされそうだ。
俺は財閥界に成り行きで入った駆け出し。
これからの努力で他の令息令嬢に追いつけるのかどうか。
いや、それならまだしも息子を作れだなんて。
源二さんと一子さんも、相当のプレッシャーだったんじゃないだろうか。
憶測だけど淳蔵さんに同じことを言われていたに違いない。
御堂先輩もプレッシャーを感じているんだろうな。
気丈に反論し毛嫌う素振りを見せても、内心は不安でいっぱいなんだと思う。
この重さが財閥を背負うってことなのかな。
そう思うと婚約してしまった鈴理先輩と大雅先輩も、相当の重圧に耐えているということになる。
普段はそんな素振り、全然見せないけどさ。尊敬したいよ、ほんと。