前略、肉食お嬢様②―カノジョな俺は婿養子―



「聞いた話によると、豊福家の借金は自身が負ったものではない」

「そりゃ俺も知ってっぞ? なんでも連帯保証人になってうんぬん……で、借金だろ?」

「そこだ。あの家族がそう簡単に連帯保証人になるなんて思えないんだ」

 
空と関わってよく分かるんだが、あいつの家は裕福どころか、生活がいつもぎりぎりだ。

弁当の件を知っているだろう?
時々弁当すら持って来れないほど、あいつの家は逼迫(ひっぱく)している。


水道光熱費が払えず、電気が止まったという話題も度々耳にしていた。が、生活ができないわけじゃない。

節約に節約を重ねて生活を送っていた。

 
ナニが言いたいかというと、あいつの家族が“借金”を負うかもしれないサインをするとは思えないというところだ。
 
よっぽど信用があれば話は別だが、金銭面に関しては非常に用心深い家族だ。空のケチっぷりを見ていたらそう思えてしょうがない。


「空で手一杯だった夫妻だ。……連帯保証人になりはしないと思うのだが」
 

あいつの生活は質素だったと思うが家庭的にはとても上手くいっていたと思うし、ご両親も温かな人達だった。
 
 
空はご両親の実子ではない。元々ご両親の兄夫婦の子供だ。

事故で親を亡くし、身寄りのなくなった空をあの夫妻が引き取ったと聞いているが、引き取る前から夫妻の生活はアップアップだったそうだ。


それでも空を引き取り、11年間我が子として愛育した。

自分達の生活を切り詰めて子を持ったのだ。

 
そんな夫妻が連帯保証人になった。しかも弁護士を探しているという。
  

弁護士を雇うだけでも、相当の資金がいる。
 
それを承知の上で空のご両親が動いているということは、借金事情の根が深いということだ。
 
これはあくまであたしの憶測だが、知らないうちに連帯保証人にでもされてしまったのではないだろうか?


知っているか、大雅。
 
借金を負う十人に一人は連帯保証人のせい。

つまり第三者の借金を負ってしまったものなんだ。
  

「玲も事情を知って当事者を捜しているのではないだろうか。
あいつはああ見えて、不正を許さない性格だからな。

婚約した理由が不純ならば、しかも毛嫌いしている祖父の差し金なら何か裏があるのではないかと思っているに違いない」


「……なんかよ。出来すぎているよな」


「ん? どういう意味だ。大雅」
 

「いやだってよ」大雅は頭の後ろで腕を組み、ここ数ヶ月間の出来事を口に出しながら思い返した。
 

事の発端は二階堂家のM&Aがニュースで話題になったことだ。

あれを皮切りに財閥の繋がりを強化しようと親同士が自分達を強制的に婚約させ、自分達は婚約式を挙げさせられた。並行して鈴理と空は別れる。
 
その空が一ヵ月後、諸事情により借金を負って御堂家の一人娘と婚約。

御堂家の世継ぎも決まり、竹之内家と二階堂家の関係も強化された。


一件怒涛の展開のように思えるが短期間でこんなにも環境が変化するだろうか?

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