前略、肉食お嬢様②―カノジョな俺は婿養子―
【駅前大通りにて】
(ん? あそこにいるのは確か)
暮夜。
取引先のビルから出た鈴理の父・竹之内 英也は駐車場に向けていた足を止め、噴水広場に視線を留める。
ライトアップされている噴水近くのベンチに腰掛けているとあるリーマン。
その顔に見覚えがあり、目を細めた。
このままスルーすることもできたのだが気分的に乗ったため、挨拶だけでもと相手に歩んで声を掛ける。
カラーカタログに目を向けていたリーマンが顔を上げた。
そして英也を捉えると、朗らかに笑い会釈する。彼は空の父・豊福 裕作だった。
彼と言葉を交わした回数こそ少ないものの(初めて顔を合わせたのが誘拐事件だという……)、三女のことで大層世話になった。一父親として挨拶くらいはと思ったのだ。
「お仕事帰りですか? 豊福さん」
「ええ。ちょっと調べ物がしたく、駅前をうろついていたのですが」
こうして双方挨拶を交わすわけなのだが、自分達の娘息子が破局していることは言わずもがなである(お互いにそのことについては触れないが)。
英也は彼の息子が御堂家と婚約していることを知っていた。
正式に発表がされているわけではないが、御堂家が一般人を義理の子息に迎えようとしていることは噂だっている。
向こう側が娘の婚約を知っているかどうかは分からないが、少なくとも財閥界に身を寄せている英也は彼の子息が御堂家の一人娘と婚約を結んでいると知っていたため、建前の祝いの言葉を手向ける。
すると複雑そうに笑う裕作の姿が見受けられた。
あまり婚約に対して快くは思っていないようだ。
親としては喜ばしいことなのではないのだろうか?
ある意味、逆玉の輿に乗れているのだから。
キョトン顔を作る英也に対し、「少し不安でして」裕作が苦笑いを浮かべる。
「息子が御堂さんのお宅に嫁ぐなんて夢にも思わなくて。まだ息子は16ですし。
……財閥界は高貴な世界だと認識しております。あの子の肌に合わないのではないかと、実はとても心配しておりまして」
「買いかぶりすぎですよ。財閥界はビジネス界とさほど大差はないです」
「しかし、あの空が財閥界でやっていけるとは思えないのですよ。
社交パーティー等で食事会でもしたら、あの子はボロを出すのではないかと。あの子はややケチ…、いえ、経済面でしっかりし過ぎるところがありまして。
どうにも庶民の子くさいと思うのです。
それを理由に空が虐げられたりでもしたら。ネガティブに考え過ぎでしょうか? 考え過ぎなのでしょうか?」