前略、肉食お嬢様②―カノジョな俺は婿養子―

 
嗚呼。

まさか受け男になりたいという人が出てくるなんて、今世紀最大の不思議ミステリーだ。
 

トロくんはさと子ちゃんにあーんなことやこーんなことをされたり、お姫様抱っこをされたり、逆セクハラされて羞恥心を噛み締めたいのだろうか?

貴方様はさと子ちゃんに押し倒されたいと?


……うーん、相手の性格にもよると思うんだけど。


彼女が攻めたく攻めたくなるようなオトコを目指すとカタイ決意表明をしているトロくんに、俺は遠目を作って見守ることしか出来なかった。

幸か不幸か、さと子ちゃんはイチゴくんと駄弁っていて彼の決意表明を耳にしていない。

何も知らない彼女は和気藹々イチゴくんと会話している。
それが彼女のためだろう。
 

 
刹那のこと。


どこからともなく甲高い悲鳴が聞こえてきた。その鋭い声音に俺達の会話が途切れる。
 
何事だと瞠目。
直後、声の方角が体育館の方からだと理解した俺は揺さぶられる感情を感じる前に駆け出した。
  
「おい豊福!」

トロくんの制止なんて耳にも入らない。
 
悲鳴が体育館の方角から、それだけで俺の中の不安が膨張した。


気のせいなら笑い話で終わる。

だけど、もしも、もしものことがあったら!


虫の予感はなんとやら、俺は多大なネガティブ心を抱えて体育館に向かった。

体育館前には女子生徒が集っている。

女子生徒の顔色と慌てふためいている様子から、俺の不安は最高に膨張した。謝罪しながらそこを掻き分け、中に雪崩れ込む。

 
そこで目にしたのはステージに群がっている演劇部員達。
 
既に舞台衣装から制服に着替えている彼等は、折り重なるように倒れている舞台セットを必死に持ち上げていた。
 
ハリボテの王室や処刑台、秋の湖畔、それらが描かれたハリボテの板が何故、折り重なるように倒れてしまっているのかは分からない。


が、これは片付け時に起きた事故なのだと俺は判断する。


多分舞台セットを一まとめにして舞台裏に運ぼうとしていたんだろう。大量のセットが倒れていた。


しかも誰かが下敷きになっているらしい。
 
部員達が舞台セットを持ち上げながらハリボテの下にいる誰かに声を掛けていた。
 
それが御堂先輩だったら俺は動揺に動揺していたことだろう。

 
けれど、下敷きになっているのは舞台裏のスタッフ女子さんのようだった。


懸命に複数の部員や教師達が重量感あるハリボテを立て直している。

< 661 / 918 >

この作品をシェア

pagetop