前略、肉食お嬢様②―カノジョな俺は婿養子―
ただ一枚一枚が大きく重いせいか、立て直すのにとても時間が掛かっていた。
その間にも下敷きになっている女子のすすり泣く声が聞こえる。
引きずり出そうとしても足が挟まっているのか、はたまたスカートが挟まっているのか、それはなかなか叶わないらしい。
懸命に部員数人がセットを支えて彼女の負担を軽くしようとしているけれど、限界は近そうだ。
「くそっ!」
泣いている女子生徒に焦りを感じたのか、御堂先輩が部員に自分はハリボテを一旦手放すと告げ、宣言どおりセットを手放す。
そして屈んで仲間を引きずり出そうと試み始めた。
「馬鹿! よせ御堂、君まで潰されるぞっ! セットを持つ状態が維持できるかどうか分からないんだ!」
貴族主人公さんだった演劇部員が声を張り上げる。
彼もまた舞台セットを支えて動けない部員の一人だった。
「だったら潰れるかもしれない彼女を見放す気か! この舞台セットが一枚辺り、何十キロあると思っているんだ!」
喝破する御堂先輩が、間に入って下にいる女子生徒を引きずり出そうと躍起になる。
それを見た瞬間、俺は形振り構わず駆け出した。
「あ、ちょっと」
駄目だと女子生徒さんの誰かに声を掛けられてしまったけど、聞く耳を持つ余裕はない。
ただただ馬鹿をしている彼女を見て走らないといけない激情に駆られた。
四隅に畳まれ、積まれているパイプ椅子を引っ掴むと土足構わずステージに飛び乗る。
同時刻、部員達のセットを支える手が揺れはじめた。
御堂先輩が体を張って女子生徒を引きずり出そうとしたおかげさまか、下敷きになっている女の子の半身が見える。
「もう少しだ」
泣いている女子生徒に声を掛け、大丈夫だからと慰めている婚約者だけど彼女は自分の身の危険度は理解しているのだろうか?
分厚いセットが傾いた。支えの重心が崩れる。
御堂先輩が彼女を庇うように抱き締めたと同着で、俺はパイプ椅子を横にして間に突っ込み、それをつっかえ棒代わりにした。
これで少しは持つだろう。
本当は椅子を開いて突っ込みたかったけれど、隙間の幅がパイプ椅子を拒んだから叶わなかった。