前略、肉食お嬢様②―カノジョな俺は婿養子―
【竹之内家・三女の自室にて】
明朝。
カーテンの向こうで朝日が顔を出し始める中、寝ずに自室でパソコンと向き合っていた鈴理はEnterキーを押す。
思わず嬉々溢れた声音を漏らしてしまった。
チカチカと発光するディスプレイ越しに映し出されているのは、竹之内家が提携している企業のデータである。
財務諸表だけでなく、内輪しか知られてはならないデータが入っているのだが、とうとう鈴理は遣り切った。
周囲の手を借りながら手探りで分析した膨大な≪企業のデータ≫がついに出来上がったのである。
これさえあれば企業の長所、短所、これからすべき戦略が打ち出せる。
財閥同士の“共食い”を見越した戦略が打ち出せるのだ。
我ながらかなりの出来栄えである。
専門知識が不足している未熟な頭でも、自分なりに財閥のことを思い、将来を見据えて、生み出したデータの数々は努力の結晶そのものと言えた。
何度匙を投げようとしたか分からない。
意味不明な単語に数値が自分を混乱と出来ないのではないかというネガティブな思考に貶めようとしたが、姉達の、何より次女と婚約者の支えがあってここまでくることができた。
感極まりそうである。
後は婚約者のデータと合わせて両親に破談の直談判をすれば良い。
鈴理はカレンダーを流し目にした。
約束の期間まで残り八日。約一週間。説得する時間も十二分にある。なんとかなるだろう。
死ぬ気でやればなんでもできるものだと鈴理は思って仕方がなかった。
そう、これほどの努力をしなければ環境も変えられないのだ。
なんとかなる思考で許婚の一件をなあなあにしてしまった結果、自分を、元カレを傷付ける未来を呼び寄せてしまった。
換言すれば此処まで努力しておけば傷付く未来なんぞ訪れることはなかっただろう。
お気に入りとなっているイチゴミルクオレのパックを机上から取ると、鈴理はそれで喉を潤す。
すっかりお気に入りになっているその飲み物で喉の渇きと小腹を満たしていると、背後から静かに扉の開閉音が聞こえた。
顧みれば次女の真衣が此方の様子を窺うために部屋を訪問してきた。
まだ起きていたらしい。
「進捗状況はどうですか?」問い掛けに、「終わりました!」意気揚々と鈴理は答えて姉の下に駆け寄る。