前略、肉食お嬢様②―カノジョな俺は婿養子―
一頻り、泡で遊んだ俺はようやく我に返り、自分の置かれた状況を思い出す。
嗚呼、何してるんだろ。
ただでさえ部屋に幽閉されてこれから先のことが不安だっていうのに、友達(♂)と一緒に泡風呂に入って騒いでしまうなんて。
小学生か、俺は。
いや幼稚なだけですね分かります。
そろそろイチゴくんに風呂に入った意図を聞かなければ。
俺は泡で雪だるま(泡だるま?)を作ろうとしているイチゴくんに、どうして風呂に入ろうと思ったのか真意を尋ねる。
「もちリラックスしたいから」
即答するイチゴくん。
え、本当にリラックスしたいだけの風呂?
そうだとしたら大ショックである。
何が哀しくて高校生にもなった野郎二人で浴槽に浸からないといけないのか!
真面目に泡遊びをした自分が恥ずかしくて仕方がない。
「なーんてのは半分嘘」
半分? ということは半分本当だってことだよね?
ふーっと息を吹きかけて自分の作っただるまを壊すイチゴくんは、隠しカメラがないかどうか確かめたかったのだと返事する。
「カメラ?」声を上げる俺に「そ、カメラ」イチゴくんが肩を竦めてこっちに足を伸ばしてきた。
端に避難すると広い浴槽で気持ち良さそうに足を伸ばす。
自分のいる面積が狭くなったけど俺の気はカメラで一杯だ。
「部屋にカメラがあるって分かったの?」
「んにゃ。疑問に思っただけだよ。
あの胡散臭いニーチャンがさ、部下っぽい人に空を絶対に逃がすなって命令していたの、俺バッチシ聞いちまってたから」
一応此処には鉄窓もあるし、扉には鍵も掛けている。
既に空ひとりで部屋を脱走するには困難な環境だ。
大袈裟にカメラを設置するまでもないとは思うけど、万が一の事を考えて行動を起こしてみた。
もしかしたらこっちの動きを監視している可能性もあるしな。
風呂はそのための口実さ。
仮にカメラが設置されていたら俺達があの部屋にいないことがすぐに分かるだろ? で、何してるんだって様子見に来ると思うんだけど、それがなかった。
つまり、可能性大で部屋にはカメラがないんだよ。
ま、風呂に入ったのはそれだけじゃないんだけどさ。
「空。これからのことを考えると、お前一度、御堂の下に戻るべきだ。もしくは信用の置けそうな金持ち、元カノのところとか。保護してもらえ」
「御堂先輩の下に?」
「考えてもみろよ。お前、向こうの親の許可を得ずに家を出て行っちまったろ? めっちゃ心配していると思うぜ。お前の両親だって遅かれ早かれ連絡はいく」
誰の断りもなく、お前は御堂のじいちゃんの命令で此処に幽閉された。
それってやっぱヨクナイことだ。高校生のガキにだって分かることだぜ?
オトナが知ったら当然、一大事だって思うだろ。
何も言わず、事情も知らず、此処に閉じ込められていることは芳しくない。
確かにお前の家には借金がある。
御堂家に逆らえないのも分かる。
だけど今回の事件はほぼ御堂のじいちゃんの独断だ。
向こうの親も黙っちゃないだろうさ。