前略、肉食お嬢様②―カノジョな俺は婿養子―
スマホのディスプレイを親指でタッチし着信気歴を確認する。
元仕事場から数時間ごとに連絡が入っていた。
口角を持ち上げ発信をタッチ。
耳にスマホを当てた。二コールで元仕事場の長が出てくる。
女性特有の柔らかな声音はなく、金切り声のような声が鼓膜を打った。
向こうの切羽詰った様子が手に取るように分かる。
「高槻さんですか。……ええ、僕ですよ。そちらは混乱しているようですね」
高槻蘭子に同情するが、一切取り合ってもらえない。捲くし立てるように婚約者の安否を尋ねてくる。
「空さまですか?」
今のところは無事ですよ。今のところは。よくおやすみになっています。
有りの儘に現状を伝えた。
「しかしあまり事を荒立てない方が宜しいかと思います。会長は波風立たせず、ただただお二人の正式な婚約を望まれていますから。
大丈夫です、悪いようにはしませんよ。僕がしっかり傍にいますから」
良いようには扱うかもしれませんけどね。
心中で毒言し、眠り人になっている若き主に手を伸ばす。
前髪を撫ぜ、頬を触り、首に指を滑らせる。
相手は微動だにしない。
(意のままに動かせる世界、か。会長の見る世界が僕は欲しい)
さぞ心地良いことだろう。
嗚呼、自分も欲にまみれた人間だ。
微笑を零し、(それが叶うまで)どんな努力でもするさ。博紀は陶酔を抱くような気持ちで一笑する。
でなければ、子供(ガキ)のお目付けなどしないのだから―――…。
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