前略、肉食お嬢様②―カノジョな俺は婿養子―
ああ思い出す。彼との会話を。
「これから大変になりますね、楓さま。貴方のしたことは財閥界のタブーですよ」
自分がその地位を狙っていると発言した彼は、「タブー?」僕の何がタブーなんだい? と笑い飛ばした。
ただその地位が欲しいので宜しくお願いします。
そう、ご老人に言っただけだと楓さま。
言っただけの内容に問題があるのだけれど、彼はまったく事の重大さを理解していない。
いえ、理解はしているのだけれどう重視していない。
「大変なのは御堂家だよ。御堂源二が今回の件にぶちきれて、実父と対峙してしまったのだから。愛娘にあんなことするからだよ。
まったく……まあ、おかげで狙いやすくなったどね。
ああ、誤解しないで。僕は御堂淳蔵のように財閥を共食いするような愚かな人間じゃないよ。玲ちゃんを泣かせたくはないし」
「分かっています。貴方は御堂源二を狙っているのですね?」
「ポンピーン。前から彼と手を組む機会を虎視眈々と狙っていたんだよね。御堂源二の思想は僕の思想に似ている。
他者を傷付ける財閥繁栄ではなく、共に生きる共栄を願っているんだ。今まで御堂淳蔵の目が厳しくて迂闊に手を出せなかったけれど」
「交渉に持ち込み味方につける、ですか」
「うん。時間は要するだろうけれど、できないことはないよ。御堂源二をこっちに引き込めばより御堂淳蔵の動きが読める。あ、読めないかもしれないけど」
へにゃり、頼りない笑みを浮かべる楓さまに私は苦笑した。
「焦らず。ですよ?」
注意を促すと、
「そうなんだけどさ」
彼は不満げに唇を尖らせる。
楓さまは一刻もはやく財閥界に革命を起こしたくて仕方がないみたいだ。
表向きは軟弱優男のくせに、内面では私すら想像のつかない強い野望が渦巻いているのだろう。
何が彼をそこまで駆り立てているのかは分からない。
ただ憶測することはできる。
革命に執着するのは身内である弟と、自分の許婚に直結している……と。