前略、肉食お嬢様②―カノジョな俺は婿養子―
彼女はまだ怯えている、誰かと繋がることに。
また身内のことで利用されるのではないか。
危険に晒されるのではないか。
今度こそ本当に人の人生を奪ってしまうのではないか、心底怯えている。
それ以上に、この人は怯えていることがある。
「うそつき」
貴方はそんなことを望んでいないでしょう?
微苦笑を零し、「王子はうそつきだから」俺が素直にさせます。
いつぞか手向けられた言葉をそっくりそのまま返し、ポンポンよしよしと背中を叩き、優しく撫で、気持ちを手向ける。
「ごめんなさい、先輩。俺は王子をひとりにしてあげられません。たとえ婚約者じゃなくなっても、姫じゃなくなっても、ひとりにしてあげられない」
それだけ貴方のことが大切だから。
「傷付いた分」
今度は自分を労わって下さいね。
貴方は充分に傷付いた。
もういいのだと言ってやる。
思い詰めなくていい。
罪悪を感じなくていい。
自責しなくていい。
王子がしてくれたことは俺にとって確かにしあわせだと思えるものだから。
きゅうっと喉を鳴らすように嗚咽を噛み締める先輩は、息も絶え絶えに迎えに来たと言ってくれた。
うん、俺はひとつ頷く。
迎えに来たのだと繰り返した。
うん、俺はまたひとつ頷く。
いまだに怯えたような声で、帰ろうと言ってくる。
はい、俺は破顔した。
「一緒に帰りましょう。俺達は今、ようやく純粋な関係のスタートラインに立ったんですよ」
帰ったら何をしましょうか?
返答は得られない。彼女は、もう俺の話を聞いていないようだ。
場所問わず、堰切ったように声を上げて泣く彼女を支え、もう不純な関係ではないと繰り返す。
そう、俺達は純粋な関係になった。
彼女が気にしていた不純な関係じゃない。
だから俺は俺の意思で彼女の傍にいる。
今、誰よりも傍にいたいのは、守りたいのは王子だから。
彼女のくれた優しさと愛情を貰っておいて怨める筈がない。ないんだよ、先輩―――…。