前略、肉食お嬢様②―カノジョな俺は婿養子―


退院の日。

荷物を纏めた俺は担当医と話し、お世話になりましたと挨拶をして病室を退室。


受付カウンターで軽く書類を記し、玄関口へと赴く。


正午過ぎの空はまっさらな青空をしていた。雲ひとつない青空。

快晴と呼ぶべき天気に綻び、前方から来る人物に一笑を零す。


歩み寄ろうかと思ったけれど、やめて待つことにした。

ジーパンのポケットに手を突っ込み、彼女が来てくれるのを待つ。


突っ込んだ手に紙切れが当たった。

おもむろにそれを取り出してみると、「あ。メモ」霞館でメモしたフランス語の一文が出てくる。



≪J'attends avec impatience le retour du printemps.≫



カスミソウ畑で、忘れられたように残されたテーブルと丸椅子。

あそこで見つけた一文の意味、なんとなく今の俺には分かる気がする。


そうだ、まず手始めにこのフランス語の話題から出してみようか。


「迎えに来たよ。帰ろう、豊福」


俺なりに解釈したフランス語の一文。

御堂先輩のおばあさんが残した想いは王子にどう解釈されるのか分からないけれど、少しならずおばあさんは淳蔵さんのことを想っていたと俺は思う。


彼等の間に愛情があったかすら分かんないんだけどさ。


「やっと迎えに来てくれましたね。姫は随分と待ちぼうけを食らいましたよ」


おどけて、大きく一歩を踏み出す。

迎えの車の前には仲直りしたさと子ちゃんがブンブンと手を振り、その場でぴょんぴょんと飛び跳ねていた。

「帰ったら、まずは三人でお茶っすかねぇ」

能天気に笑う俺に、

「そうだね。そして夜はあの夜の続きかな」

王子が意地悪い笑みを浮かべてきた。


あれは無効だと鼻を鳴らす。

だってあれは鈴理先輩との勝負にケリがつける前提条件があった筈。
< 910 / 918 >

この作品をシェア

pagetop