前略、肉食お嬢様②―カノジョな俺は婿養子―
「だから絶対にシません。大体、高校生でヤッていいと思ってるんっすか? 婚約者であろうがなんだろうが、ノットスチューデント!
もう借金も何もありませんから、前以上に好き勝手に逃げますよ俺」
「えーっ、性格悪いぞ豊福。あれだけ準備していたくせに……、本当は楽しみだったんだろう? こんな本まで用意して」
「ゲッ! ブックカバーはしてあるけれど中身は簡単に察してしまうそれっ、博紀さんが用意したえげつない実用書じゃないっすか! な、なんで先輩が持って」
「またそうやってうそをつく。自分が用意したんだろ?」
「ちがっ、違います! こ、こ、これは本当に博紀さんがっ」
「何処まで勉強したのか、僕に教えてみてごらん。ん?」
「ウワァアアア! 先輩のおばかー!」
「あ、逃げるなんて卑怯だぞ! こらっ、豊福ー!」
王子の魔の手から逃げるため、車までひた走る。
退院そうそうついていないイベントだ。俺って常に追われる人生なのかも。
ふわっとやさしい風が真っ向から吹く。
持っていた手帳の破れ端が手からすり抜けた。
「やべ」
足を止め、体ごと振り返る。
急に立ち止まったせいで、先輩と衝突事故を起こしてしまった。
荷物を落として尻餅をつく俺と、「急に止まるな」愚痴る彼女。
構わず、俺は天を仰いだ。
つられて御堂先輩も空を仰ぐ。
舞い上がるメモはまるで青空に吸い込まれるように、高くたかくのぼった。
微かに見える一文は、俺達をそっと見下ろしてくる。
≪J'attends avec impatience le retour du printemps.≫
―――春が再び巡ってくることを楽しみにしています。
ねえ、先輩。
おばあさんもずっと、誰かに待ち焦がれ、待ちぼうけを食らっていたかもしれませんね。
⇒