多々なる世界の〇〇屋【企画】
参:【種蒔き屋】
「幸(さち)さん、ちょっといいですか?」
幸 寿恵(ひさえ)は、同じティッシュ配りのバイトの同僚、弘前(ひろさき)という女に話しかけられ「なんですか?」と呑気な声で振り向いた。
「あの、相談があるんだけど」
「ああ、いいですよぉ。時間ならいくらでも、なんで」
今日は休日ですから、と寿恵は陽だまりのように笑った。一度ティッシュを配るのを止め、コンビニエンスストアの角に寄る。
「あなた、ティッシュ配りは副業だって聞いたんだけど」
寿恵はピクリと反応する。あまり一般市民に知られていない【種蒔き屋】なので、弘前のような一般人に依頼されるのは久方ぶりだった。
いや、宣伝をしていないので知られていないだけなのだが。
「いきなりごめんなさい、貴女、種蒔き屋なんだよね」
「ああ、そうですよ」
少し聴覚を研ぎ澄ませる。普段天然な女子大学生である寿恵だが、本業に関しては話は別、驚くほど真面目なる性格だった。
「あたし・・・どうしても種を蒔いて欲しい人がいて・・・」
そう言って、弘前は1枚の写真を突き出した。