多々なる世界の〇〇屋【企画】
それから、出芽活動が開始された。
弘前は、最初は岡本の前に現れて通り過ぎ、2日目には岡本に会った時は「おはようございます」や「こんにちは」などと行儀のいいように挨拶をし、弘前なりに出芽活動に励んでいた。
その様子を寿恵は見ていたが、寿恵は「まだだ」と心の中で呟く。岡本の中の種は、まだ芽が出かける状態ですらない。
(でも、いつもの奴なら、あれくらいで芽が出る奴もいるのになぁ。岡本さんが鈍感なだけなのかな?)
弘前と岡本の様子を見ながら、寿恵は疑問に思う。どうやら、荒地(岡本)に芽を植えてしまったようだ、と例えるように思った。
すると、ふと寿恵は思う。
(そうか)
自分自身で言った言葉に救われたような気分になる。
(肥料(第三者)が必要なんだ。ホカホカに肥えた、土が)
それに気付いた寿恵は、真っ先に情報屋の所へ向かう。その「第三者」がいる施設に向かわなければならない。
―岡本Side―
最近、よく特定の若者を見かける。大学生くらいで、よく挨拶してくる礼儀のある若い女性だ。
どこか懐かしさを感じさせるのが不思議だが、大して特別には思わない。
―だって、彼女が誰だか分からないじゃない。
ふと、彼女の手に小さな宝石が埋め込まれたペアリングが光る。小指ではなく、親指につけたリングだ。とうの昔に施設に預けた娘にも、同じ場所にペアリングをつけたことを思い出す。
彼女は今、どうしているのだろうか。
軽く思ったつもりだが、なぜが重いことのように感じた。
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