多々なる世界の〇〇屋【企画】
「すみませぇん」
「第三者」がいる所は自分の住むアパートからそう遠くない施設だと聞いた。その「お母さん」とやらは、年寄りになった今でも、施設で育児活動に励んでいるらしい。
施設のチャイムを鳴らす。
「どなた?」
柔らかそうな服を着た老女だ。いかにも、孫がたくさんいそうな雰囲気の女性だった。
「あ、私、弘前さんに依頼を受けました。種蒔き屋の幸です。貴女にちょっと会ってもらいたい人がいて・・・」
「弘前・・・澪(みお)ちゃんのこと?」
澪というのは、多分弘前の本名だろう。寿恵は「はい」と答えた。
「種蒔き屋ねぇ・・・。私も一度だけ利用したことがあるわ」
懐かしそうに言うと、老女は「きっと、お母さんのことね」と言う。
「はい。弘前さんのお母さんに、彼女が本当の娘である、と」
「伝えてほしいの?」
彼女が聞いてきたが、寿恵は首を横に振った。
「何故?」
「貴女が伝えても、彼女のそこに眠る感情は顔を出しませんよ。それに」
「それに?」
寿恵は、自分の仕事のプライドにかけて、そして、あの母子に対する思いに賭けて、ハッキリと言った。
「仕事だからです。だから成功させます。種蒔き屋のプライドにかけて」
寿恵の眼光が強く光った。