多々なる世界の〇〇屋【企画】
もしその岡本が弘前の母親としたら、こう考えられる。
岡本は夫を刺し殺した後、何らかの理由があって幼い弘前を施設に預けた。資料には、その岡本は自首してきたと書いてあったので、きっと預けた後で自首したのだろう。
きっと岡本は・・・娘に汚名を着せたくなかったのだろう。
「殺人犯の娘」という汚名を――。
正当防衛だったということで、懲役十数年で済んだなら、岡本が今この表社会にいてもおかしくは無い。
「・・・よし」
植え替えを始めるとするか。
寿恵は大きく背伸びした。
―
翌日、寿恵は岡本の前に立った。
居場所は情報屋が教えてくれたので、すぐに突き止められた。(情報料は取られたが)
「あなた・・・この前の」
「種蒔き屋の、幸といいます」
寿恵は、さっそく話を持ち出した。
「あなたは、何で無理矢理娘さんを忘れようとするんですか」
弘前の顔も岡本には分かっていたのか、彼女はひどく動揺した。
「もう、そこまで知れてるのね」
「貴女が起こした事件も知っています。でも、私としては、それは恥ずべき行為ではないと思うんですよ」
「殺人が?」
岡本は自虐的な声を出すが、寿恵はひるむことなく受け止めた。