多々なる世界の〇〇屋【企画】
「正当防衛、と言った方が正しいでしょう。それに」
「それに?」
「あのまま放っておいたら、貴女だけでなく娘も被害に遭う・・・。あなた、そう考えての上で殺したのでは?」
岡本は先ほど以上の動揺を見せた。
「そう考えるのは、私としては正しいと思いますよ。私利私欲ではないですから」
「どうして・・・それが?」
「・・・貴女が、娘に汚名を着せまいと、施設に預けたのがその証拠です」
「そんなこと、私の考えが他人に分かるの?」
「分かりますよ」
寿恵は苦々しい思いを胸に、こう言った。
「あなたの中にえんえんと降り注いでいるのが、水ではなく娘を思うが故の涙だと、ここ数日で分かったからですよ」
「・・・っ」
あくまで仮定だったが、どうやら図星らしい。
「・・・説得力の無い台詞ね」
「これが、私なりの説得ですから」
岡本は、唇を噛み締めた。
「・・・ええ。そうよ」
「そうなんですね」
「殺人犯の娘という事実を背負うあの子がそれに気付いたらどう思う?どんな傷が付くと思う?私のほうはせっかく忘れてたのに、また思い出させるなんて、余計な事を―」
「娘さんに会いたくて仕方が無い、と、思い出してから丸一日悲しみの雨を降らせていたのに、ですか?」
寿恵は、岡本の言葉を遮るようにして言った。