多々なる世界の〇〇屋【企画】


 * * *


「起きてるかい、ひょろなが小僧」

 少年が重い瞼を持ち上げる。

眼前には、しゃがみこんでいまいち表情のつかめぬ男の顔があった。

「う、わっ」

 少年はそこで、自分の体の自由が利かぬことを察するのだった。

体中に荒縄をまきつけられ、芋虫のように床に転がされているのだ。

「なにするんだよ」

「なにって、おまえさんを捕まえたんじゃないかよ。

捕り物ってやつだ」

 男は言って、後ろの机に置かれたせんべいを齧る。

 少年は、自分が拘束された部屋を目で一巡した。

 部屋の中は廃れた木造だった。

自分が転がされている床は畳で、障子も窓も皆無であるところを見ると、

どうやらここは地下室、穴蔵であるらしい。

広さでいくとちょうど、安いマンションの一室ほどの面積がある。

錆びついたような汚れが目立つキッチンを除いては、ほぼ和風の部屋であった。

「おまえさん、殺人犯なんだってな。

だめだぜぇ、少年法があるからって人を殺しちゃあよ、えっ?おまえさん、いくつだい」

 茶化さんばかりに男が言った。

「……じゅ、十七」

「なんだ、もっと子供かと思ったぜ。

いや、それにしたって物騒だなあ。こんなバッグの中に、金と服と凶器。

まさに逃走中って感じだねえ。

おいひょろなが小僧、どこに逃げるつもりだった?」

「どこでもいいじゃないか。

僕は逃げなきゃならないんだ」

「捕まるから、か?」

「それしかないだろ」

 少年は声を尖らせた。





< 55 / 61 >

この作品をシェア

pagetop