多々なる世界の〇〇屋【企画】
* * *
「起きてるかい、ひょろなが小僧」
少年が重い瞼を持ち上げる。
眼前には、しゃがみこんでいまいち表情のつかめぬ男の顔があった。
「う、わっ」
少年はそこで、自分の体の自由が利かぬことを察するのだった。
体中に荒縄をまきつけられ、芋虫のように床に転がされているのだ。
「なにするんだよ」
「なにって、おまえさんを捕まえたんじゃないかよ。
捕り物ってやつだ」
男は言って、後ろの机に置かれたせんべいを齧る。
少年は、自分が拘束された部屋を目で一巡した。
部屋の中は廃れた木造だった。
自分が転がされている床は畳で、障子も窓も皆無であるところを見ると、
どうやらここは地下室、穴蔵であるらしい。
広さでいくとちょうど、安いマンションの一室ほどの面積がある。
錆びついたような汚れが目立つキッチンを除いては、ほぼ和風の部屋であった。
「おまえさん、殺人犯なんだってな。
だめだぜぇ、少年法があるからって人を殺しちゃあよ、えっ?おまえさん、いくつだい」
茶化さんばかりに男が言った。
「……じゅ、十七」
「なんだ、もっと子供かと思ったぜ。
いや、それにしたって物騒だなあ。こんなバッグの中に、金と服と凶器。
まさに逃走中って感じだねえ。
おいひょろなが小僧、どこに逃げるつもりだった?」
「どこでもいいじゃないか。
僕は逃げなきゃならないんだ」
「捕まるから、か?」
「それしかないだろ」
少年は声を尖らせた。