多々なる世界の〇〇屋【企画】
何かを言いたがっている。
しかしそれを抑えている。
男の双眸はその少年の強張った表情を見逃さなかったのか、きらり、とことさらに輝いた。
「おまえさん、よもや誰かの罪を被るために、血まみれになって逃げてるんじゃあるまいな」
びくり。
男の台詞に、少年が瞠若した。
「そんなわけ、ないだろ」
「なるほど、そんなわけねえか。
そりゃそうだな。俺だって勘で言っただけだからよう。
こんなよわっちそうな小僧が、人なんざ殺せるのかねえ、とさ」
頬杖を突き、男は訝って少年の瞳の真髄を視線で射抜いた。
少年が睨み返してくる。
ははあ、これは何か隠してやがるな。……とばかりに、男は舌をなめずった。
そしてあろうことか、少年の体を拘束していた、複雑に糾われた荒縄を解いたのだった。
「じゃあ、やってみな」
言うやいなや、男はくだんのナイフを少年の足元に投げて渡した。
仰天し、少年は呆然と没収されたはずのナイフを見下ろす。
「おまえさん、人を殺せるんだろう。
だったらやってみろよ。俺を殺して、こっから逃げるがいいさ」
「どういうつもりだ」
「だってよう、おまえさん弱そうなんだもの。
だから俺は賭けてるのさ。おまえさんは、俺を殺せねえ。
俺も長年、悪人の道にコンクリ敷き詰めて塞いできたんでな、分かるんだい。
そういう状況に置かれた真の悪人ってのはよ、無理してでもその障害物を除けようとするのさ。
それなのにおまえさんときたら、無抵抗で逃げようともしねえ」
男は少年をあざけ、見くびっている。
少年はゆっくりと、サバイバルナイフを手に取ろうとした。