多々なる世界の〇〇屋【企画】
「……やっぱ、そうだったか」
跪いた少年の肩を、男はその顔に似合わぬ、包容力のある手でいだいた。
少年の罪は濡れ衣だった。
彼はもともと孤児院の出であり、それを引き取ったのが、いわゆる非合法的なヤクザたる者たちであった。
同類同士のいざこざは、破落戸の常。
キャバクラで如何わしい争いごとを起こした彼らはついに、一人の破落戸をそのナイフでついたのだった。
そしてその犯人役を演じさせられたのが、この少年―――。
とっさに主犯の者はボストンバッグに凶器と、そしてどう見たって犯人の所持物を思わせる逃亡の必需品を積みこみ、
少年を逃がしたのだ。
『いいか、できるだけ目立つように逃げろよ』
―――誰が拾い育ててやったか、わかってるよな。
育てられたと言っても、十五歳で引き取られてからたったの二年間のみ。
しかし少年は生まれついてこの方、臆病でかつ真面目にできている。
彼はそして、暗い路地を一人で逃げてきたのだった。
ティッシュを一枚取り、ぶしゅう、と少年は悲劇の主人公さながらに鼻をかんだ。
「それよりも」
鼻声で、少年はちゃぶ台に正座して、差し向かいにいる男を上目遣いに見る。
「あのう……僕の言ってることが、嘘だとは思わないんですか?」
「嘘かどうかは、決めるのは俺じゃねえぜ。
そのナイフに付着した指紋を見りゃ分かることさ。
おまえさんの無実を証明するためにも、おまえさんはちと茨の道を歩かにゃならねえ。
……そんで、その真犯人の道にゃ、コンクリの壁を作らねえとな」
男はボストンバッグの中に軍手をした手を突っ込み、札束の五分の一を抜き出した。
「見てろよ小僧、これからがこの俺、進路屋のお仕事の時間だぜぇ。
あ、この抜いた金は報酬な」
少年が、「あの、それって普通、誰かが依頼を持ってきて成立するんじゃないんですか?」
と問う暇もなく、男は下駄を鳴らして戸を開けた。