清水の舞台
倉田は由美と二人っきりになると自分の気持ちを抑えることができなくなった。

「佐藤さん、すごくお綺麗ですね」

「まあ、うまいことゆって、漬け物屋から預金を集めようとなさってるのね。いいわ、一度主人にかけあってみる」

「いえ、そうじゃないです。本当に、一目惚れというか、その」

「もう、おばさんをからかうもんじゃないわよ」

「からかってなんかいません。もしよかったら、連絡先を教えていただけませんか」

こんなにも積極的になったことは今まで一度もなかった。この積極的な行動に倉田自身が一番驚いていた。しかも、はじめて出会った他人の妻に、である。

由美も悪い気はしなかったのだろう、電話番号を書いた紙を渡した。

< 17 / 31 >

この作品をシェア

pagetop