清水の舞台
「もう、こんな時間。松木さん、私お先に失礼します」

由美はそう言うと、帰っていった。

『ルー』は、倉田と真理子の二人になった。

意を決したかのように、倉田が話しだした。

「清水寺にいたのは、二人で死ぬ前に、彼女の好きな京都の街を一緒に観て歩きたかったからなんです。まさか、清水の舞台から飛び降りるなんて死に方はしませんが、そうしたい気分でした」

今までにない倉田の表情であった。

「心中というやつですか？」

真理子はきいた。

「ええ。結局、死ねませんでした。それで結局、昨日は二階に由美さんを泊めたんですよ。今ごろ、彼女の家は大変なことになってると思います」

「なぜ、死なないといけないの？」

「僕たちが付き合っていることが由美さんの旦那にバレてしまったんです。それで別れなくてはいけなくなって。でも、それがどうしてもできなくて」


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