清水の舞台
松木真理子が、ここまでを青山刑事に話すのに、約一時間ほどかかった。

青山は休憩をはさむことなく、これまで書いたメモを読みなおした。

まず、倉田良行はA銀行時代に取引先である社長の娘に恋をした。倉田の思いは伝わるが、その娘、すなわち佐藤由美は人妻だった。その後、倉田はA銀行を辞めて、佐藤由美のいる京都にやってきた。そこで、たびたび逢瀬をかさねるも、由美の旦那に発覚してしまう。旦那は川本工務店に多額の融資をしてくれている。由美には子どももいる。倉田と由美は別れることができず、心中まで考えた。

青山は、メモを読みあげ、せつないですね、と言った。

確かに、普通の人間なら、この二人の話を「せつない」や「かなしい」で表すのだ。


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