清水の舞台
倉田さんも何か飲んでくださいね、真理子は酒をすすめた。
倉田は礼を言うとグラスにビールを注いだ。
真理子の他に客は居なかった。
まだ開店して1ヶ月そこそこである。馴染みの客はまだできていないようだ。
流行るといいですね、私も時々友達を連れて寄せてもらいます、真理子はそう言った後、グラスの酒を飲みほした。
「ここは場所がいいから、ボチボチお客さんもふえてくるでしょう」
倉田は、真理子にそう言った。
それはどうだろう。水商売は場所ではない。人なのだ。確かに、倉田は二枚目で、マナーもしっかりしている。まれにみる好青年だ。しかし、いかんせん“しゃべり”が苦手なようである。この男では店を流行らせるのは難しいだろう。「人がよい」だけでは夜の仕事は成功しない。安いシャンパンを客に高い金を出させて飲ませる話術がいるのだ。多少、「人が悪い」必要がある。倉田からは全く悪というものが感じられないのだ。おそらく、このバーは成功しないだろう。と真理子は分析した。
「同じものをください」
真理子はもう一杯だけ飲んで帰ろうとした。
この沈黙に耐えられないのだ。
ただセンスの悪い洋楽だけがバー『ルー』の音であった。
倉田は礼を言うとグラスにビールを注いだ。
真理子の他に客は居なかった。
まだ開店して1ヶ月そこそこである。馴染みの客はまだできていないようだ。
流行るといいですね、私も時々友達を連れて寄せてもらいます、真理子はそう言った後、グラスの酒を飲みほした。
「ここは場所がいいから、ボチボチお客さんもふえてくるでしょう」
倉田は、真理子にそう言った。
それはどうだろう。水商売は場所ではない。人なのだ。確かに、倉田は二枚目で、マナーもしっかりしている。まれにみる好青年だ。しかし、いかんせん“しゃべり”が苦手なようである。この男では店を流行らせるのは難しいだろう。「人がよい」だけでは夜の仕事は成功しない。安いシャンパンを客に高い金を出させて飲ませる話術がいるのだ。多少、「人が悪い」必要がある。倉田からは全く悪というものが感じられないのだ。おそらく、このバーは成功しないだろう。と真理子は分析した。
「同じものをください」
真理子はもう一杯だけ飲んで帰ろうとした。
この沈黙に耐えられないのだ。
ただセンスの悪い洋楽だけがバー『ルー』の音であった。