空人1〜奇跡〜
「もう、ひどい――…」
「冗談だって。じゃあ、早いとこ帰ろうぜ。もう用事、ないんだろ?」
「……。無い、けど」
「じゃ、行こう」
柊は口を尖らせ俺を睨んでいる。
でも、頬を赤くしたままの柊は全然怖くない。
むしろ、これ位の方が安心する。
ただ、何故柊が一緒に帰ろうと言ってくれたのかは未だに分からない。
ただ、気にした所で何も始まらないから。
頭にまとわりつく邪念を振り払うように、教室の扉を開ける。
柊の新しい一面も発見出来た。
たまには、一緒に帰るのもいいかもな。
空気がひんやりとし、開けっ放しになった窓から風が入り込む。
同じく、あの時から変わらぬ掛け声が聞こえてくる。
そんな教室全体を一瞥し、俺は柊と共にその場を後にした。
この後起こりうる事態など、全く予想せずに。
二人に与えられたこの一瞬が、これほど大切だったとは――…。
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