空人1〜奇跡〜
教室の扉から手を離し、周囲を見回しながら柊の様子を伺う。
しかしそうしても、誰もいないのが分かるだけで。
当然、手を差し伸べてくれる物などない。
追いつめられていく中、柊は相変わらず俯いたまま。
……。どうすりゃいいんだよ。
迷っている時だった。
突然柊が、顔を上げる。
そして、自分の制服の袖で涙をぬぐう。
その時の柊が見せた表情は、何とも言えなくて――…。
泣き笑いのような表情が、胸の鼓動を高まらせる。
柊――…。
そして、再び一粒の涙がこぼれ落ちた後。
柊はぼそっと呟いた。
「一緒に、帰ろうよ――…」
瞬間、窓から強い風が吹き込む。
風は柊の短髪を優しく宙へと舞わせる。
その姿は、とても言葉に表せないもので。
全ての物が停止する中、俺と柊の間にだけ時間が流れているような錯覚を覚えた。
「……そう、誘おうと思ってた」
どこかおぼつかない、しかしはっきりと俺に対して向けられた、柊の視線。
どういう事だよ――…。
頭の中が混乱し、上手く状況を掴めない。
そんな中。柊の切なげな姿は、いつもの積極的な一面を忘れさせてしまう程に。
とても可愛らしく見え、不覚にも目を奪われてしまった。
.