消して消されて
俯いていて表情は分からない。

しかし理香ははっきりと言った。

「たすけて」と。

まるで人が変わったように理香がしおらしくなった。

唯は一瞬言葉を失った。

「・・・何かあったの?」

理香はぱっと顔を上げると、石段から立ち上がり周囲を警戒するように見回した。

「ここでは何も話せない」

唯はただ事ではないことを感じ取った。

「じゃあ、うちん家来る?」

今日は父親は出張でいないので好都合だ。

「でも、あんたを巻き込むわけには・・・」

まさか人を配慮するような言葉が目の前の少女の口から出てくるとは、昨日では考えられなかった。

「もう十分巻き込まれてるから。ほら、行くよ」

いじめを解決するには双方の話を聞くことが大事である。

唯は理香の手を引いた。
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