消して消されて
「帰って・・・」

何か言わなければ。

ここで帰ったらもう一生瞳に会えない気がする。

しかし言葉が出てこない。

動こうとしない唯を見た瞳はナースコールを握った。

「帰ってくれないならこれ押して追い出すから」

これ以上瞳を刺激してはいけない。

明らかに精神的に不安定になっている。

それもこれも全て自分のせいだ。

唯は後ろ髪を引かれる思いで病室を後にした。

バルコニーに出て病院を見上げた。

一体何をしに来たんだろう。

結局何も出来ず、むしろ関係を悪化させただけのように思えた。

いや、もしくは瞳の本心を聞けたいい機会なのかもしれない。

瞳は自分のことを忘れたがっている。

もう目の前に姿を現さない方がいいだろう。

メールも送らない。

唯は携帯を取り出すとアドレス帳から瞳の情報を引き出した。





「ごめんね、瞳」





瞳の情報を消去した。

これでいいのだ。
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