猫かぶりな男とクールな女
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「蒼介!ここだよ!お疲れさん」
誠のテンションにうんざりしながら店の奥に足を進めると、誠が手招きしながら隣の椅子を引いた。
ガヤガヤと言う擬音が妙にハマる賑やかな居酒屋の中、誠は一人カウンター席に座っている。
「お疲れさんじゃねぇよ」
不機嫌さをアピールしたくて、席を一つ空けて座ってみたが…さすが不自然なので、仕方なく隣に腰掛け直す。
誠の食べかけの枝豆を口に放り込み、ビールを注文しようとすると…
椅子を弾き飛ばすように、誠が勢いよく立ち上がった。
「あ………遥!
こっち!」
「は………?」
誠の視線を辿ると、そこには昨日とは打って変わったカジュアルな姿の遥が立っていた。
「……なんでまた」
うなだれる蒼介に気づいたのか、遥はニヤニヤしながら近付いてくる。
「蒼介君、また会えたわねー!」
ガッシリと蒼介の肩を掴むと嬉しそうに顔を近付けてきた。蒼介は怯む事なく、遥の目を見つめながら……
「……遥さん……クマ、スゴイですね」
「…………」
遥はヒョイっと体勢を起こし、真顔で『化粧直してくるわ』とだけ呟いて、トイレへと駆け込んでいった。
「…………何なんだよ?昨日の今日で、なんでまた俺呼び出されたの?」
蒼介と遥のやり取りに触れる事なく、誠はつまみをテキパキと追加注文している。
「大体、お前………今朝までウチに一緒にいたのに、なんの話があんだよ。」
蒼介は先程の誠との電話で…『大事な話があるから』と言われたので、美奈子の誘いを断ってここへ来たのだ。
どちらにせよ、寝不足が続いている事もあり、彼女の誘いを断る事は始めから決めていたのだけれども。