猫かぶりな男とクールな女
皆の長い夜
***
約束の水曜日の夜。
仕事を終えた蒼介は、誠に案内されながら遥のマンションに向かっていた。
「お前………遥さん家、よく行くの?」
「うーん………たまに飲み屋に呼び出されて、仕事のグチ聞かされたりするけど。
まぁ、でも………帰りに送っていく事はあっても、部屋には上がらないよ。」
「………そうなんだ」
誠との別れ話の際、キレまくっていた遥が今になって誠と恋愛抜きの関係を続けている心情が蒼介には理解できない。
「ここだよ。」
駅から5分程歩いた場所にある白いマンションの前で誠は立ち止まる。
「………遥さん、結構稼いでるんだ…」
見上げると、月が最上階の部屋の隣りに並ぶように浮かんでいる。
明らかに、女一人で住むには立派過ぎるのではないかと思わせる外観。
「そんな事ねぇよ。アイツの実家、不動産屋だし。
個人でもマンションの何部屋か買いとってて、家賃収入があるからそれで何とか暮らせてる感じだよ。」
「家賃収入………ねぇ」
淡々と話す誠は、躊躇うことなくエントランスへと足を踏み入れる。
すると、ぼーっとマンションを眺めていた蒼介の背後から、聞き覚えがある声がした。
「………新嶋さん?」