猫かぶりな男とクールな女
君の夢
― 明け方
自宅のベッドに身を投げ出した途端、睡魔がおそってきた。
なんだかんだで、朝の5時まで飲んでしまった…
後半は眠気と胸やけのせいで、ほとんど遥と夏帆の会話をただ聞いているだけだった。
大した話はしなかった。
9月から年末まで婚礼予約が立て込んでいて、二人とも大忙しだとか…仕事の内容がほとんどだった。
蒼介が雑誌社に勤めている事を明かすと、夏帆は驚いた顔で『へぇ…』と声を漏らしたが、それ以上は何も言わなかった。
遥がやたら楽しそうに話すものだから、夏帆もそれにつられて時折笑いながらそれに応えていた。
やはり、蒼介と夏帆が直接会話する事はなかったが…出会った時から感じていた夏帆との間にある壁が、少し薄くなったように思えた。
「会うのは最後……か」
悶々とした気持ちを余所に、枕に顔を埋めて目を閉じると、意識を失うように深い眠りにおちていった。
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ブブブブッ ブブブブッ……ブッ
「……………」
心地よい眠りを妨げたのは、やはり…あのバイブ音。
ここ最近、この鈍いバイブ音をきっかけにハードスケジュールを余儀なくなれていた蒼介は…
重い瞼を少しだけ開け、携帯の電源ボタンを力いっぱい連打した。
『着信 春日部美奈子』
と表示された画面がプツリと消える。
朦朧とする頭を持ち上げ、ベッドの脇に置かれた時計に目を凝らす。
「17時………」
我にかえり、恐る恐るカーテンをめくると、悪天候な事もあり、外はすでに薄暗くなっていた。