猫かぶりな男とクールな女
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『……今どこ?』


仕事を定時で終えた蒼介は電話を耳にあてたまま、重い足どりで飲み屋街をうろついていた。



『店の前にいるよ!もう着く?』



『店の名前だけじゃわかんねぇよ』


『あれ、メールに店の地図も添付したはずだけど…』


『小さくて見ずらい』



『えぇぇ……
じゃあ迎え行くから、どこにいるか教えろよ』


誠の話す後ろから、女がクスクスと笑う声が聞こえた。



『…近くまでは来てるはずなんだけど。
………あ、いた』

十字路の中央に立って辺りを見渡すと、誠が人込みの中で背伸びしながら蒼介を探す姿が見えた。



『おっ!見えた見えた…ここだよ!』


蒼介を見つけた誠はぴょんぴょん跳ねながら、黄色く光る店の看板を指さした。
それに答えるように小さく頷き、電話を閉じた。





****


「じゃあ……とりあえず、かんぱーーい!!!」


誠の張り切り声で合コンがスタートした。


店内はアジアンリゾートをイメージした内装で、メニューを開くと、料理も和風というよりは多国籍料理を思わせる品名がずらりと並んでいた。
飲み会の場では、ビールを3杯ほど流し込んでからワインか焼酎割に変えるのがいつものパターン。蒼介は、ろくにメニューを見ることなく、向かいの席に目を移した。




―3姉妹かよ……?

蒼介は思わず苦笑いした。
横一列に座る女性陣は、まるで相談して決めたかのように、ペールカラーの似たようなワンピースを着ていた。髪型も同じく緩い巻き髪で揃えて、ニコニコしながらカクテルを嗜んでいる。



―ってか5対3だったら、むしろ俺は来なくて良かったんじゃ……









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